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蜜柑
芥川龍之介(1919年)
約8分
3,157字
あらすじ — 退屈な列車で見た、蜜柑の色が忘れられない
憂鬱な冬の夕暮れ、横須賀線に乗る「私」。隣に座った田舎者の少女に不快感を覚える。すべてが退屈で灰色に見える世界。しかしトンネルを抜けた瞬間、少女が窓から蜜柑を投げた。その一瞬の光景が、「私」の心を完全に変えてしまう。芥川龍之介が実体験をもとに書いた、わずか数分で読める珠玉の一作。
この作品のひとふみ
云いようのない疲労と倦怠とが、 まるで雪曇りの空のようなどんよりした影を 落していた。
芥川龍之介
垢じみた萌黄色の毛糸の襟巻をした、 大きな風呂敷包みを抱えた、 十三四の小娘
芥川龍之介
私はこの小娘の下品な顔だちを好まなかった。 それからまた大きすぎる風呂敷包みが不快であった。
芥川龍之介
暖かな日の色に染まっている蜜柑が 五つ六つ、汽車を見送った弟たちの上へ ばらばらと空から降ってきた。
芥川龍之介
私は思わず息を呑んだ。 そうして瞬間的にあらゆる事を了解した。
芥川龍之介
小娘はあの霜焼けの手をのばして、 窓から身体をのり出すが早いか、 窓の外の寒さに息をはずませながら、 勢いよく左右に振った。
芥川龍之介
すべてが退屈で、下等で、 退屈で仕方がなかった。
芥川龍之介
トンネルの中の汽車の窓をあけるなんて、 非常識な。
芥川龍之介
それは赤い頬をした三人の男の子が、 目白押しに並んで立っていた。
芥川龍之介
私はこの時始めて、 云いようのない疲労と倦怠とを そうして又不可解な、下等な、 退屈な人生を僅かに忘れる事が出来たのである。
芥川龍之介
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