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やっとの事でそこまで来ると、 もう遠い薄暗がりの中にも、 見覚えのある家が何軒かあった。
芥川龍之介「トロッコ」
背景解説
泣きながら走り続けた良平が、やっと見覚えのある風景にたどり着く。「見覚えのある家」がこんなに安心する言葉だなんて。日常のありがたさって、こういう体験をして初めてわかる。帰る場所があることの幸せを、八歳の良平は体で学んだ。
「見覚えのある風景」が、こんなに泣けるとは。
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『トロッコ』の他のひとふみ
良平は毎日それを見る度に、 トロッコへ乗りたくてたまらなかった。
芥川龍之介
トロッコは線路を降りるように走り出した。 良平は眼を輝かせて、 両側の風景を見やった。
芥川龍之介
もう帰んな。 おれたちは今日はこっちに泊まるんだから。
芥川龍之介
良平はもう泣きたいのを我慢しながら、 一生懸命に走り続けた。
芥川龍之介
そのまた向うには夕焼けの空の下に、 ぼんやり薄紫に横たわっている海さえ見えた。
芥川龍之介
もう日が暮れる。―― そう思うと良平は一層走らずにはいられなくなった。
芥川龍之介
良平はとうとう泣き出した。 しかし足だけは止めなかった。
芥川龍之介
おうい。
芥川龍之介
既に二十六の良平には、 そんな事を思い出しても、 別段何とも思わない筈である。 しかし彼はどうかすると、 全然何の理由もないのに、 その時の彼を思い出す事がある。
芥川龍之介
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