谷川のせせらぎに交って、何とも知れぬ獣の声が遠く聞えた。
泉鏡花高野聖」(1900)
不穏何かがおかしいと直感したとき
ぼくは損害を賠償してもらう権利があります。そのためにご子息壮二君を人質としてつれてかえりました。
江戸川乱歩怪人二十面相」(1936)
怒り, 恐怖悪意ある報復に直面したとき
努力は一である。併し之を察すれば、おのづからにして二種あるを觀る。一は直接の努力で、他の一は間接の努力である。
幸田露伴努力論」(1912)
発見努力しても成果が出ないとき
ああ、暑、暑! どうだった、譲治さん、あたしの踊るのを見ていた?
谷崎潤一郎痴人の愛」(1924)
喜び自分の成功を確認したいとき
正直だから、どうしていいか分らないんだ。世の中に正直が勝たないで、外に勝つものがあるか、考えてみろ。
夏目漱石坊っちゃん」(1906)
決意、信念、不器用さへの開き直り窮地に陥ったとき、自分の弱さと向き合うとき
それから、池の岸で、どんなことがおこったかは、しばらく読者諸君のご想像にまかせます。
江戸川乱歩怪人二十面相」(1936)
好奇心、謎めいた不安何か重大な出来事が起きたことを知りたいとき
人間を愛し得る人、愛せずにはいられない人、それでいて自分の懐に入ろうとするものを、手をひろげて抱き締める事のできない人、――これが先生であった。
夏目漱石こころ」(1914)
切なさ、矛盾への驚き先生という人物の本質を理解したいとき
喜助はにっこり笑った。「お奉行様にはそう仰しゃるだろうと思っていました。しかし私はこれまでの暮しに比べると、島へ行くのがどんなに楽かしれません。」
森鷗外高瀬舟」(1916)
衝撃、切なさ底辺の生活を経験して、小さな幸せに気づくとき
私は十五歳で学問に志した。三十歳で自分の精神的立脚点を定めた。四十歳で方向に迷わなくなつた。五十歳で天から授かった使命を悟った。
下村湖人現代訳論語」(1949)
感銘自分の成長が実感できず焦っているとき
吾輩は猫である。名前はまだない
夏目漱石吾輩は猫である」(1905)
潔白, 静寂, 孤独恐怖と緊張の中で、自分の存在を簡潔に述べたいとき
どうせぼくらには、骨も分けて呉(く)れやしないんだ。
宮沢賢治山越え」(1921)
絶望, 諦観, 怒り自分たちの無力さを痛感したとき
表の大通りには往来が絶えない。声高に話し合って、カラカラと日和下駄を引きずって行くのや、酒に酔って流行唄をどなって行くのや、至極天下泰平なことだ。そして、障子一重の家の中には、一人の女が惨殺されて横わっている。何という皮肉だ。
江戸川乱歩D坂の殺人事件」(1925)
無常感、虚無感日常と非日常の境界に直面したとき、世界の不条理を感じたいとき
書物にあることは前述のごとく抽象的であるから、未熟の頭脳には入りにくい。たまたま入れば自分を省みるより他人を責むる道具となる。
新渡戸稲造自警録」(1916)
ドキッ本を読んで賢くなった気になっているとき
こんな、うじ虫の様な生活を、続けて行く位なら、いっそのこと、死んで了った方が増しだ
江戸川乱歩人間椅子」(1925)
怒り、絶望、決意自分の無価値さに直面し、人生を諦めかけたとき
そうして、その翌る日のあけがた、私は、あっけなくその男の手にいれられました。
太宰治ヴィヨンの妻」(1947)
切なさ, 無常感, 諦念自分の人生が予期せず変わる瞬間を知ったとき
ぼくは二千四百円の損害だ
宮沢賢治注文の多い料理店」(1924)
滑稽命の危険より金を気にしちゃうとき
或る意味においてすべての人間は哲学者である。
三木清哲学入門」(1940)
勇気自分には哲学なんて無理だと思ったとき
我脳中には唯我は免(ゆる)すべからぬ罪人なりと思ふ心のみ満ち/\たりき。
森鷗外舞姫」(1890)
罪悪感、絶望、孤独自分の選択がもたらす結果に直面し、取り返しのつかない過ちを犯したと感じるとき
そうだ、兵十のおっ母(かあ)は、病気だったんだ。あの鰻(うなぎ)を食べたいと云ったにちがいない。ところが、わしがいたずらをして、鰻を取って来てしまった。だから兵十は、おっ母にうなぎを食べさせる事ができなかった。
新美南吉ごんぎつね」(1932)
後悔、罪悪感自分のせいで誰かを傷つけたと気づいたとき
この言葉を聞いた時、三四郎は真実に熊本を出たような心持ちがした。同時に熊本にいた時の自分は非常に卑怯(ひきょう)であったと悟った。
夏目漱石三四郎」(1908)
覚醒、後悔と決意の混在、解放感自分の過去の思考に向き合い、本当の意味で新しい世界へ踏み出したいとき