読者諸君、事件は実に面白くなって来た。
江戸川乱歩D坂の殺人事件」(1925)
どんよりとくもれる空を見ていしに人を殺したくなりにけるかな
石川啄木一握の砂」(1910)
えらい駆け落ちをしてしまったという悔いが一瞬あった。
織田作之助夫婦善哉」(1940)
見よ、鳶は羽ばたきもせず中空から石のように落ちて来るではないか。
中島敦名人伝」(1942)
上なら、人がいたにしても、どうせ死人ばかりである。
芥川龍之介羅生門」(1915)
あなたが生んだという賢一郎は二十年も前に築港で死んでいる。
菊池寛父帰る」(1917)
おれが行かず。お前様の代わりにおれが行かず
島崎藤村破戒」(1906)
僕の視野のうちに妙なものを見つけ出した。妙なものを?――というのは絶えずまはっている半透明の歯車だった。
芥川龍之介歯車」(1927)
人間はね、相手が狐だと分かると、手袋を売ってくれないんだよ
新美南吉でんでんむしのかなしみ」(1935)
あの蠟燭が尽きないうちに私が眠るか、またはコップ一杯の酔いが覚めてしまうか、どちらかでないと、キクちゃんが、あぶない。
太宰治」(1947)
もうあとへは退けない気になっていて、再び情火を胸に燃やしながら心をこめた手紙を続いて送っていた。
紫式部(与謝野晶子訳)源氏物語(20 朝顔)」(1914)
二年の後には、激しく往復する踏み木が睫毛(まつげ)をかすめても、絶えて瞬くことがなくなった。
中島敦名人伝」(1942)
人間は、二つの魂の誕生を持っているといえよう。
中井正一美学入門」(1941)
ああ、この匂い……これはいつぞや、ダンスの教授のシュレムスカヤ伯爵夫人……
谷崎潤一郎痴人の愛」(1924)
僕はいつでも僕自身だ。ただ皮は変わるだろう。
芥川龍之介或阿呆の一生」(1927)