二百文の鳥目を島へ持って行く事が出来る。この金はお上からいただいたものである。自分の物というものは、生まれてから持った事がない。それを今懐に持っている。
森鷗外高瀬舟
背景解説
たった二百文。現代でいえば数千円くらいのお金を、生まれて初めて「自分のもの」として持てた喜び。これを聞いたとき、「幸せ」って何だろうって考えさせられる。何億円持ってても満足できない人がいる一方で、二百文で幸せになれる人がいる。
でも喜助の物語には、もっと重い秘密が隠されていた。
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高瀬舟』の他のひとふみ
高瀬舟は京都の高瀬川を上下する小舟である。
森鷗外
庄兵衛はいつも遠島を申し渡された罪人を載せて、大阪へ廻してやる事になっていたのであるが、今迄載せて来た罪人は、いずれも暗い顔をしていた。それに引きかえて喜助の顔は如何にも楽しそうで、若しかすると嬉しいのではなかろうかと思われた。
森鷗外
世間の普通の人の身の上に何が起るか。大抵の人は借金をしたり、物を売りとばしたりして暮している。そうして何時までたっても楽にならない。それはいつも先の事を苦にして、今日の一日を楽しまないからではあるまいか。
森鷗外
喜助はにっこり笑った。「お奉行様にはそう仰しゃるだろうと思っていました。しかし私はこれまでの暮しに比べると、島へ行くのがどんなに楽かしれません。」
森鷗外
弟の喜三郎は病気で働けなくなって、兄に世話をかけているのが辛くて辛くてたまらなかったのだそうである。そこで兄の留守に剃刀(かみそり)を出して自分の咽(のど)を切ったのである。
森鷗外
「その剃刀を抜いてくれ。己(おれ)は早く死にたいのだ。」と云った。
森鷗外
喜助は弟に頼まれた通り、剃刀を抜いた。抜くと血がどっと出て弟は死んだ。
森鷗外
庄兵衛はこの男を島へ送ることが果して是(ぜ)であろうかという疑を持った。
森鷗外
黒い水の面にはきらきらと美しい星の影が映っていた。
森鷗外
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