杜子春は又元の大金持になりました。するとどうでしょう。今まで眉をひそめていた、洛陽の都の人達は、急にいそいそと御世辞を云い始めました。
芥川龍之介杜子春」(1920)
皮肉、失望人間の本性を見せつけられて幻滅するとき
小さき者よ。不幸なそして同時に幸福な汝等の父と母との祝福を胸にしめて人の世の旅に登れ。
有島武郎小さき者へ」(1918)
祝福旅立ちを見送るとき
日本一の桃太郎は鬼が島の鬼を征伐した後、宝物の車に乗り、意気揚々と帰って来たのであった。
芥川龍之介桃太郎」(1924)
皮肉、批判勝者の正義に違和感を覚えるとき
婀娜っぽい、かろらかな微笑の裏に、真摯な熱い涙のほのかな痕跡を見詰めたときに、はじめて「いき」の真相を把握し得たのである。
九鬼周造「いき」の構造」(1930)
切なさ人の奥深さに触れたとき
富士が、よかつた。
太宰治富嶽百景」(1939)
安らぎ何かに救われた気がしたとき
ナオミは私が事実発狂したかと思ったようでした。彼女の顔はその時一層、どす黒いまでに真っ青になり、瞳を据えて私を見ている眼の中には、殆(ほとん)ど恐怖に近いものがありました。
谷崎潤一郎痴人の愛」(1924)
狂気、支配への絶望愛する者によって完全に支配されてしまった自分を認識するとき
お前たちの中には母上の血が流れている。母上は決して死んではいない。
有島武郎小さき者へ」(1918)
希望大切な人を亡くしたけれど前を向きたいとき
喜びの深きとき憂いよいよ深く、楽みの大いなるほど苦しみも大きい。
夏目漱石草枕」(1906)
悲しみ、深い洞察人生の喜怒哀楽の矛盾に気づいたとき、幸福と不幸が表裏一体であることを感じたとき
こう云う風に、幾晩となく母が気を揉んで、夜の目も寝ずに心配していた父は、とくの昔に浪士のために殺されていたのである。
夏目漱石夢十夜」(1908)
悲しみ絶望を知りたいとき、無意味な努力について考えるとき
ごんは毎日毎日、栗や松茸(まつたけ)を拾って来ては、兵十の家へ持って来てやりました。
新美南吉ごんぎつね」(1932)
献身、孤独誰にも気づかれない努力を続けているとき
あなたばかりではありません。わたしの背中にも、悲しみはいっぱいです。
新美南吉でんでんむしのかなしみ」(1935)
驚き、連帯自分だけが苦しんでいると思っていたのに、同じ痛みを持つ人に出会ったとき
冬が来ていた。あの鋭い冬が――
堀辰雄風立ちぬ」(1938)
喪失避けられない別れを予感したとき
云いようのない疲労と倦怠とが、 まるで雪曇りの空のようなどんよりした影を 落していた。
芥川龍之介蜜柑」(1919)
孤独何もかもが退屈でうんざりするとき
髪をきちんとして、 それから靴の泥を落してください。
宮沢賢治注文の多い料理店」(1924)
好奇心言われるがままに従ってしまうとき
ゴーシュはかっこうがこんやあたり来るかなと思いながら また一生けん命セロを弾きました。
宮沢賢治セロ弾きのゴーシュ」(1934)
決意一人で黙々と練習しているとき
嗚呼、何等の特操なき心ぞ、「承(うけたま)はり侍(はべ)り」と応(こた)へたるは。
森鷗外舞姫」(1890)
自己嫌悪、迷い、後悔自分の本心に背く決断をしてしまったとき
学問をさせると人間がとかく理屈っぽくなっていけない
夏目漱石こころ」(1914)
悲しみ, 断絶親と子の価値観が相容れないと感じたとき
良平はとうとう泣き出した。 しかし足だけは止めなかった。
芥川龍之介トロッコ」(1922)
決意泣きながらでも前に進まなきゃいけないとき
それは、ただ、触覚と、聴覚と、そして僅の嗅覚のみの恋でございます。暗闇の世界の恋でございます。決してこの世のものではありません。これこそ、悪魔の国の愛慾なのではございますまいか。
江戸川乱歩人間椅子」(1925)
陶酔, 恐怖, 倒錯椅子の中で人間の肉体に触れることの快楽に目覚めたとき
血がきらいなのです。
江戸川乱歩怪人二十面相」(1936)
不気味さ、奇妙さ敵や困難な対手の正体を知りたいとき